こんにちは、本多です。
このブログでは、プログラミングや教育のことについて書いていきます。
さて今回は、スクラッチ(Scratch)を用いたプログラミング教育の長所と短所について書いていきます。
本校では、「スクラッチコース」というコース名で、スクラッチを用いた授業を行っています。主に小学生を対象としたコースで、ひらがなが読めればできるくらいのレベルから、計100種類以上のゲームを作りながらプログラミングを学んでいきます。
スクラッチって何?
スクラッチ(Scratch)とは、教育向けプログラミング言語であるとともに、それを用いてゲームやアニメを制作するアプリの名称です。
MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボによって開発され、世界中の子どもたちがゲームやアニメを作ったり、投稿されたものを遊んでいたりします。
日本でも、プログラミング教育発足時には盛んに取り入れられ、一部の小中学校では現在も使われています。
スクラッチの教材としての価値とは
さて、このスクラッチが持つ、長所と短所はどういったものなのでしょう。
前回の記事では、プログラミング教育の目標の中でも中心となる「プログラミング的思考」は、以下4つの活動ができるようになることであると説明を行いました。
それは以下のものです。
①やりたいことがある。(問題と捉えてもよい)
②それを実現する、動きの組み合わせを考える。
③動き1つ1つを対応した記号に置き換え、組み合わせる。
④論理的に考え、意図する活動に近づくように②③を改善していく。
スクラッチという教材はこの①~④は身に付きやすいのでしょうか。
「①やりたいことがある。(問題と捉えてもよい)」
文科省はプログラミング教育の手引きにおいて、プログラミングするにあたっては、どのような動きをさせたいかの意図を明確にすることが重要であるとしています。例えば、目に見えない動きや抽象的な動きなどはイメージがしづらく、それに伴って意図を明確にすることも難しくなってしまいます。
スクラッチにおいては、本校では現実のゲームやアニメーションを模倣したり作成したりします。よって生徒の生活体験と結びつきやすく、やりたいことなども思いつきやすいです。
「②それを実現する、動きの組み合わせを考える。」
「③動き1つ1つを対応した記号に置き換え、組み合わせる。」
「④論理的に考え、意図する活動に近づくように②③を改善していく。」
この3つに関して、実はスクラッチは適していません。
ゲームを作るという特徴から、自然と複雑なプログラムになりやすいスクラッチは、動きの組み合わせに分けたり、動きを1つ1つの記号に分けたりすることが難しいです。
ではなぜ、このような短所のあるスクラッチを、本校では採用しているのでしょうか。
それは、「短所を打ち消すほどの綿密なカリキュラムを前提としているから」と、「補って余りある長所が存在するから」です。
スクラッチの短所を打ち消すカリキュラム
本校では、スクラッチで作れるオリジナルゲーム教材を100種類以上制作しています。そしてそれらは細かな難易度順となっており、ブロックを1個置くだけで完成するレベルから、実在するゲームを1から作るほどのレベルまでが滑らかになるようにしています。スクラッチといえど、ブロック1個で完成するようなレベルまで下げれば、前述した短所は当然出てきません。ならばそれを、100段階にほんの少しずつ難しくしていったらどうなるでしょう。
そうです。子どもたちも1つクリアするごとに成長していきますから、その次のレベルにも短所は存在しません。ならば、1つ1つ階段を登っていく限り、子どもたちにとってこの短所は存在しないのと同じになるのです。
お気づきの通り、「ゲームを自分で作る」という活動は、子どもたちにとって大きな魅力があります。人は、興味のあることの方がより記憶することができることから考えると、スクラッチでゲームを作りながらプログラミングを学ぶという行為自体、大きな長所であることが分かります。
また、「自分が利用しているものを自分が作ってみる」という活動は、学校や日常生活でも行われており、とても重要なことです。自分で料理をしたり、ポスターを作ったり、文章を書いたりなど、自分が作り手側になることで学ぶことは多いと考えます。
ゲームも同様です。子どもたちが普段感じている心地の良いゲーム体験は、様々なプログラム上の工夫によって作られています。
子どもが作り手側に回り、どのようなデザインにするかを考え実際にプログラミングすることは、普段遊んでいるゲームの工夫を再発見することに繋がり、日々のゲーム体験でさえ学びに変化するきっかけとなります。
このように、スクラッチには解消できる短所と、素晴らしい長所があることが分かりました。その一方で、学校ではスクラッチが禁止となっていることが多いです。
それはいったいなぜなのでしょうか。
スクラッチが学校で禁止になるワケ
これはスクラッチがゲーム共有プラットフォームの機能を兼ねていることが原因です。
ゲーム共有プラットフォームとは、要するに他の人が作ったゲームを見たり、そのゲームをアレンジしたりすることができる機能のことです。しかしこの機能は、実質色々なゲームを遊ぶ機能となります。実際、スクラッチが使えた当時は、プログラミングをせずゲームを遊ぶだけの子が多くいたそうです。本校は個別指導のため、この短所は特に気になることはありませんが、学校にとってはプログラミングができる長所よりもこの短所が大きいと判断したのでしょう。であれば学校が禁止するのも当然です。
裏返せば、学校として大きな長所があることは認識しつつも、この短所によって使用を許可できないという状態であるということです。
公的な教育機関である以上、短所を見過ごすことはできません。しかし、現状の集団教育では解決することが難しい以上、断腸の思いで使用を禁じているのだと思います。
私は役割分担であると考えています。集団教育では難しい部分を個別指導で補っていく。そのような役割としてテラボを活用していただければと思います。
おわりに
この記事は以上となります。
今回は、スクラッチを用いたプログラミング教育の長所と短所について解説しました。
スクラッチはその活用の是非について学校現場では議論が続いており、どちらかと言えば非の意見が大きいです。しかし、スクラッチの持つ長所は絶大であり、本校のようなオリジナル教材を作成し、個別指導可能な環境であれば、大きな教材価値を持ちます。
スクラッチでゲームを制作する活動でプログラミングを学ぶとともに、「文化の消費者」から「文化の生産者」へと子どもたちが成るきっかけとなることを目指していきたいと思います。
次回は、変数理解の困難性について解説していきます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
(文責 本多)