こんにちは、本多です。
このブログでは、プログラミングや教育のことについて書いていきます。
共通テストに情報が追加された経緯
さて今回は、2025年度 大学入学共通テスト「情報」の傾向と分析について書いていきます。
2025年度から、大学入学共通テストに「情報」という科目が追加されました。
細かい科目の変更は数多くあったものの、このような必修科目の追加はかなり稀なこととなります。
この「情報」が追加された経緯として、総務省が2013年に出した「世界最先端IT国家創造宣言」にその記述が見られます。この宣言は題名の示す通り、ITを中心とした成長戦略について記したものになります。以下に教育に関係する部分を抜粋して紹介します。
「国際的にも通用・リードする実践的な高度なIT人材の育成」
初等・中等教育段階からプログラミング等のIT教育を、高等教育段階では産業界と教育現場との連携の強化を推進し、継続性を持ってIT人材を育成していく環境の整備と提供に取り組む。
このように記述されており、2013年の時点で小中学校に対してプログラミング等のIT教育が検討されていたことがわかります。
またそこから5年後、首相官邸から2018年に出た「未来投資戦略2018」では、より具体的に教育の改変が読み取れます。
大学入学共通テストにおいて、平成 36 年度から必履修科目「情報Ⅰ」などの新学習指導要領に対応した出題科目とすることについて本年度中に検討を開始し、早期に方向性を示すとともに、コンピュータ上で実施する試験(CBT)などの試験の実施方法等について検討を進める。
これらから分かる通り、10年以上の検討を経て「情報」のテストが追加されました。
その主目的としてはIT人材の育成が掲げられ、その対策として
①初等中等教育でのプログラミング教育の必修化
②高等教育での「情報」科目の追加
③大学入試共通テスト「情報」の追加
が行われたことが分かります。
これらの改革は令和に入ったあたりから段階的に進められ、今回の2025年度 大学入学共通テスト「情報」が行われたことにより、この教育改革は一旦修了したと言えます。
共通テスト「情報」の分析
義務教育期間におけるAI人材育成の終着点である共通テスト「情報」は、その役目を果たしているでしょうか。共通テストには大学選抜の目的だけでなく、高等学校教育を通じて育まれる「知識・技能」「思考・判断・表現力」を十分に持っているかを検証する目的も存在しています。これらの目的が十分に果たされているかどうか、検討されるべきです。
本記事では以下の条件で問題の傾向と分析を行いました。
・共通テスト「情報」のすべての問題における、それを解くのに必要な学習単元と知識思考で分類を行った。
・学習単元は、本校で開講されている「情報講座」の単元を基に、①情報社会、②情報デザイン、③コンピュータ、④情報のデジタル化、⑤問題解決、⑥プログラミング の6単元としている。複数単元にまたがる問題もあるが、今回は問題の中心となる単元を学習単元とした。
・知識思考については、単語を答える問題や概念理解を図る問題については知識とし、それ以外のものについては思考とした。
分析を行った結果が以下となります。(単位:問)
知識 | 思考 | 計 | |
①情報社会 | 2 | 0 | 2 |
②情報デザイン | 0 | 2 | 2 |
③コンピュータ | 0 | 0 | 0 |
④情報のデジタル化 | 0 | 4 | 4 |
⑤問題解決とデータ活用 | 1 | 27 | 28 |
⑥プログラミング | 0 | 7 | 7 |
計 | 3 | 40 | 43 |
なお、どの問題が該当しているか、各学習単元のより細かな学習内容については以下のリンクをご覧ください。Googleのスプレッドシートが開きます。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1p7ZnuZeSfPXadpovOkWYnd-oEr1UC7sN_M4tXtogmj8/edit?usp=sharing
共通テスト「情報」の問題点
さて、この表から読み取れるように、今回のテストには大きく2つの課題があることが分かります。それは、知識問題が全体の10%以下であることと、⑤問題解決とデータ活用が全体の50%以上を占めていることです。
まず、知識問題が全体の10%以下であることについてです。
これには以下を根拠として改善が求められます。以下は高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編から抜粋したものです。
・従前の情報科において「情報の科学的な理解に関する指導が必ずしも十分ではないのではないか」という課題が指摘されており、それを改訂したカリキュラムであること。
・「情報と情報技術及びこれらを活用して問題を発見・解決する方法について理解を深め技能を習得するとともに,情報社会と人との関わりについての理解を深めるようにする。」とあること。
・「教科の見方・考え方を重視し,知識の理解の質を更に高め,確かな学力の育成を目指している。」とあること。
指導要領上で明記されているように、知識問題はないがしろにして良いものではなく、科学的な理解を前提とした情報活用において重要なものであるはずです。しかし、そのゴールである共通テストが知識問題をないがしろにしてしまうと、逆のメッセージを高校生に与えてしまう恐れがあります。
次に、⑤問題解決とデータ活用が全体の50%以上を占めていることです。
全ての教科は、領域や単元、科目などの名称で学ぶ内容を分類しています。例えば算数であれば「数と計算、図形、測定、変化と関係、データの活用」の5領域に分かれ、音楽であれば「表現(歌唱、器楽、創作)、鑑賞」の2領域4分野に分かれています。
授業時間数などに多少の差はあれど、総合してその教科の力を育んでいく以上、これらに優劣はありません。
東京書籍の情報ⅰにおいて、情報の内容は「(1)情報社会の問題解決、(2)コミュニケーションと情報デザイン、(3)コンピュータとプログラミング、(4)情報通信ネットワークとデータの活用」という4つの科目に分かれています。
共通テストにおいて50%を占めていた、⑤問題解決とデータ活用は、情報ⅰにおける(4)の一部(データの活用)に含まれます。
つまり、教科書上で本来たった12.5%~25%であるはずのものが、テストでは2~4倍になっていることが分かります。
言うまでもなく、これは他の単元が少ない、または存在しないことに大きな問題があります。ここに記すには余白が足りませんが、今回テストにならなかった単元には将来を担う高校生にとって必要な学びが山ほどあります。
しかしまるで今回のテストは、それらは勉強,理解しなくていいよと言っているようです。
なぜこうなったのかを考察する
これらのように、今回のテストの内容や構成については一部問題があったように私は考えます。
情報が追加された目的の1つである「IT人材の育成」に立ち返ると、あまり合致していないようにも感じます。
しかし、テストの制作者がこのような指摘を予想していなかったとは考えていません。
このようなテストになった背景には、2つの理由が考えられます。
・全科目に共通して、共通テストは資料から読み解く問題が多くなっている。
・共通テストの初回であり、テストの難化を避けた。
前者は、最近の共通テストの傾向にあります。年々問題の文章量が増加し、一定の読むスピードや読解力が必要となっています。これはすべての教科で共通しており、ほとんどの教科で1000語以上の増加が見られています。今回情報に知識問題が少なかったのは、この傾向を踏まえ、資料からの読解を意識して作成されているのではないかと考えます。
後者は、共通テストの初回であるという点です。
今回の問題は旧課程である「情報関係基礎」のテスト内容と似ており、その結果として自然と易化してしまったと予想できます。また、高校情報の授業自体も始まったばかりであり、その中で理解の難しいコンピュータや通信、デジタル化の内容を出すことで大きく平均点が下がってしまうことに難色を示した可能性もあります。
このような背景はもっともらしく感じるかもしれませんが、実際には問題が残ります。
重要な学習事項、すなわちテストに出題する内容は、これらの理由とは無関係であるからです。
おそらく自分には分からない様々な理由があったのだとは思いますが、どうしてこのようなテストの構成になったのか、説明が欲しいところです。
終わりに
この記事は以上となります。
今回は、2025年度 大学入学共通テスト「情報」の傾向と分析について解説しました。
今年度から新しく始まったこのテストはまだまだ様々な疑問や問題があり、どんどん良くなっていくのだと思います。
同様に、全ての教育は常にアップデートされていく必要があります。本校でも、生徒の反応から教材を常に見直し、改善を続けています。「学問に王道なし」という言葉は、教育者にとってみれば「教育もまた王道なし」「教材もまた王道なし」ということだと思います。
自己批判をくり返し、少しでも良い方向へ子どもの学びが向かうよう、努力していきたいと思います。
次回は、学力調査から判明した現代英語教育の課題について解説していきます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
(文責 本多)
「参考文献」
総務省,(2013),世界最先端 IT 国家創造宣言,
https://www.soumu.go.jp/main_content/000232635.pdf
首相官邸,(2018),未来投資戦略2018,
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2018_zentai.pdf