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学力調査から判明した現代英語教育の課題

2025年4月1日

こんにちは、本多です。
このブログでは、プログラミングや教育のことについて書いていきます。

さて今回は、学力調査から判明した現代英語教育の課題について書いていきます。

学力調査とは

現在の小中学生の学習状況を知る手段の一つとして、全国学力・学習状況調査というものがあります。
全国学力・学習状況調査は、毎年全国すべての小学校6年生と中学校3年生に向けて行われる調査で、令和5年度の中学校3年生に対しては国・数・英の3教科で調査が行われました。
調査の方法としては、単純にそこまでに習った内容のテストを行い、その結果を調査するというものです。毎年約100万人ほどの生徒がテストを行うため、正確な各教科の理解度の現状を知ることが可能です。
今回は、令和5年度に実施された英語の調査結果について、深掘りしていきたいと思います。
なお、今回の調査の原文が見たい方は、本記事の文末に文献へのリンクがありますので、そちらからご覧ください。

まず、今回のテストの内容についてです。全17問で、そのうち「聞くこと(選択式)」が6問、「読むこと(選択式)」が6問、「書くこと(短答式、記述式)」が5問となっています。なお、選択式の問題についてはすべて4択形式となっています。

調査の結果

さて、これらの全国平均正答率について見ていきたいと思います。
まず、全体の平均正答率は46.1%となっており、50%を超えない結果となりました。
中央値は7問/17問、最頻値(最も人数が多い正答数)は4問/17問となっており、どちらも低い数値となっています。
また、各分野ごとの正答率は以下のようになっています。
・「聞くこと(選択式)」は58.9%
・「読むこと(選択式)」は51.7%
「書くこと(短答式、記述式)」は24.1%
書くことにおける、解答の方法ごとの正答率は以下のようになっています。
・「短答式」は30.9%
「記述式」は13.9%

結果を見て、皆様はどのように感じたでしょうか。
当然、「聞くこと」や「読むこと」の正答率についても問題はありますが、比較して「書くこと」の正答率が著しく低いと思ったのではないでしょうか。
特に「記述式」については13.9%とほとんどの人が正答できておらず、無回答率について見てみると、「書くこと」の無回答率は18.2%となっており、そもそも5人に1人は記述式の解答を諦めてしまっている状況となっています。

発信技能とは

さて、「聞くこと」や「読むこと」を受容技能と呼ぶのに対して、「書くこと」や「話すこと」を発信技能と呼びます
ざっくり、英語を日本語にできるのが受容技能で、日本語を英語にできるのが発信技能であると考えて下さい。
一般に、発信技能は習得難易度が高いと言われています。例えば現在の中学英語の教科書では、全ての英単語を受容語彙(日本語に訳せてほしい単語)と発信語彙(双方向に訳せてほしい単語)に分けており、全体の単語に対して発信語彙はその1/3ほどであるとされています。つまりは単語ですら発信することの難しさを認識した上で教科書が作成されていることが分かります。
日本の英語教育全体においても発信技能の習熟については以前から問題視されており、2021年に改訂された指導要領解説上には「学習した語彙や表現等を実際に活用する活動を充実させ,言語活動の実質化を図っている。」との記載があるものの、まだその改善には至っていないようです。

母国語の発達から見る文法の難しさ

いうまでもなく、発信には単語と文法の理解が必須となります。しかし、文法を理解し活用するということは、単語に比べレベルが高いようです。このことは、母国語の発達から読み取ることができます
中川ら(2005)は、日本語を母語とする3歳から12歳の390名に対して、日本語理解の調査を行いました。結果から、3-4歳の時点で単語についての理解は9割を超えている一方、三要素結合文(男の人はリンゴを食べています)のような文章においては、急に5-6割ほどの理解に下がります。述部修飾(犬は茶色い馬を追いかけています)のような文章においては小学校1-2年生であっても5-6割ほどの理解でした。単語が3-4歳でできていることから考えると、文法の理解はそこから4年以上かかってしまうことが分かります。これらの傾向は全ての言語で共通していることが確かめられており、単語と文法の理解がかけ離れていることが分かります。
では実際子どもたちは文法が分からない段階で、どのように親の指示を受信しているのでしょうか。彼らは文中の単語を拾い上げ、状況や対象の身振りなどから類推して意味を決定しているのです。皆さんも英語の学習で身に覚えがあるのではないでしょうか。リスニングなどで、とりあえず聞こえた単語から意味を考えて問題を解いたことがあると思います。言語の理解は、まずそのような所から発展していっているのです。

語族から見る英語の難しさ

そう考えると、現在の英語教育のように小学校5,6年生で受信技能を中心に行い、中学校から発信技能も盛んに行っていくという流れは大きくは間違っていないように感じます。それでもここまで難しいとされてしまうのは、日本語と英語の乖離にもあると考えます。一般に、世界中の言語には、語族と呼ばれる括りが存在します。ざっくり言えば、各言語にも血がつながっている言語と他人の言語があるということです。ヨーロッパ、インド、南北アメリカのほとんどの言語は同語族(インド・ヨーロッパ語族)であり、その中であれば比較的第二言語として習得も容易であると考えられています。しかし、日本語については様々な考え方があるものの、それらとは全く異なる語族であると考えられており、体系が大きく違うため、難しいと考えられています。
例えば英語話者が各言語を学ぶ際の難しさを記述したサイトでは、同語族のヨーロッパ圏の言語が600時間ほどで学べると書いてある一方、言語的に遠い日本語や中国語、韓国語には2200時間必要であるとされています。

確かに、簡単な文1つを例にしても、日本語と英語の差異は大きいと感じます。加藤(2009)は、以下の例文を用いて日本語と英語の差異について言及しました。
「お待たせいたしました。」 ⇔ 「I’m sorry to have kept you waiting.」
まず、日本語では存在しなかった主語と目的語を英語では明確にすることが必要となっています。さらに、日本語で敢えてIとYouを訳すのであれば、「私はあなたを待たせました。」といった文ですが、Youである「あなた」の位置は、「待たせる」の前に来ることになります。また、敬意に近い表現やニュアンスを表現することは難しく、英訳を困難にさせています

どのように英語を学習していくか

さて、ここまでで言語の学習において文法が課題であり、さらに日本語と英語の距離の遠さがさらに助長してしまっていることが分かりました。
では、このような言語的な違いにおける文法の難しさにおいて、どのように言語を学習していけばよいのでしょうか。藤原(2020)は、言語間の差異が大きい第二言語習得において、言語的な違いをマイナスな物として捉えるのではなく、逆にポイントとして気づかせることで、英語学習が効率的な物になる可能性を実験を通して示しています。これは、中学校の学習指導要領解説にも記載があり、文法事項を指導する際には英語と日本語の違いに焦点を当てて整理したりする方法が例として挙げられ、英語と日本語の言語的類似性や相違性に目を向けて、両言語を対比することが文法指導において有効であるとしています。
では、文法において両言語を対比する方法としてどのような方法が適切なのでしょうか。両言語を対比して見るという行為を、我々は言語の相互翻訳(日本語訳、英語訳)であると考えています。英語を見て日本語に直したり、日本語を見て英語に直したりする学習活動は古くから行われてきました。この翻訳による学習を重視するという教育法は、一時期は古い教育であるとされていました。現代の中学校英語教育がコミュニケーション重視であることからもそれが読み取れます。しかし、この場にて深い言及は避けますが、言語学者であるCook(2010)の『訳の効用』という著書を発端に、外国語教育において翻訳の重要性を支持する言論も一般的になりました。事実、コミュニケーション重視の中学校英語教育で、発信技能の習熟が順調に進んでいるとは言い難い現状において、翻訳を重視することはそれを打開する方法の1つであると考えています。

終わりに

この記事は以上となります。
今回は、学力調査から判明した現代英語教育の課題について解説しました。
「書くこと」は、本校に通っている生徒を見ても、共通する課題であると感じています。それを受け、なるべくその課題を解決しようと教材開発を進めています。単語を覚え、文法を理解し、日本語訳や英語訳をすることができる。シンプルなことですが、それを行うには本当の意味で英語を理解していることが必要です。学校でコミュニケーションを行い、テラボで文法や単語をしっかりと学ぶ。そのような位置づけでテラボを活用していただければと考えています。
次回は、算数数学がなぜ苦手であり続けているのかについて解説していきます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

(文責 本多)

引用文献

文部科学省(2017),中学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 外国語編

国立教育制作研究所(2023),令和5年度全国学力・学習状況調査報告書【中学校/英語】
https://www.nier.go.jp/23chousakekkahoukoku/report/middle_eng.html

中川佳子,小山高正,須賀哲夫(2005),J.COSS第三版を通してみた幼児期から児童期における日本語文法理解の発達,発達心理学研究第16巻第2号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdp/16/2/16_KJ00003801270/_pdf/-char/ja

Effective Language Learning,https://effectivelanguagelearning.com/language-guide/language-difficulty/ ,(2025年3月16日閲覧)

加藤典子(2009),英訳しにくい日本語表現,東京工芸大学工学部紀要Vol.32 No.2
https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F9212959&contentNo=1

藤原隆史(2020),日本語話者が直面する英語学習における言語的障壁に関する一考察 ―認知様式の違いに起因する負の転移を中心に―,松本大学研究紀要第18号
https://matsumoto-u.repo.nii.ac.jp/records/1219