こんにちは、本多です。
このブログでは、プログラミングや教育のことについて書いていきます。
さて今回は、算数数学がなぜ苦手であり続けているのかについて書いていきます。
嫌われる算数
学研教育総合研究所が毎年1200人の小学生児童に対して調査を行った、小学生白書というものがあります。その中で好きな教科・嫌いな教科というアンケート項目があるのですが、10年連続で嫌いな教科で算数が1位となっています。その割合は大体が20~25%あり、つまりは4-5人に1人は算数が嫌いであるという集計結果になっています。
また、文部科学省が2024年度4月に小学校6年生に向けて行った全国学力状況調査においてはその傾向がより顕著で、「算数の勉強は好きですか。」という質問に対して38.9%の児童が「どちらかといえば当てはまらない」,「当てはまらない」と回答しています。そして、その割合は年々微増の傾向にあります。
では、好き嫌いはともかくとして実際の理解度はどうなのでしょうか。
文科省の同調査では、小学校6年生に対して全16問のテストを実施し、その結果を集計しています。
平均正答率は10.2問/16問となっており、パーセントで言えば63.6%の正答率といえます。また最頻値は14問/16問であり、正答率が8問/16問以下の児童割合は約3割という結果でした。皆さんはこれをどのように感じるでしょうか。前回の記事を読んだ方からすると、問題ないのでは?と捉える方もいるかもしれません。確かに、中学生英語の状況と比べるとまだマシと言えるかもしれません。しかし、小学6年生の段階で3割の子が半分も理解できていないという事実は、算数数学という教科の持つ特性によって重大な問題をはらむことになります。
中一ギャップ
「中一ギャップ」という言葉をご存じでしょうか。もしかしたら聞いたことのある方もいるかもしれません。これは、中学校に入るといじめや不登校が増えるとされ、それを表す言葉として一時期広まりました。事実はどうあれ、これを発端に学校は小中連携が叫ばれるようになります。小中連携とは、その名の通り小学校と中学校の境を滑らかにしようとする活動です。小学生が中学校の見学に行ったり、中学校の先生が小学校で授業をしたり、小学校でも教科担任制が一部取り入れられたりなど、様々な活動が行われています。この流れは教科内容にも伝わっていくことになります。小学校で英語が始まった背景にもこの流れが関わっており、小学校と中学校の間でギャップが生まれないよう、きれいな階段となるように教科の内容や指導を検討することが求められています。
さて、この教科内容の階段のことを学習の系統と呼びます。学習内容を段階的に配置し順序立てたものが系統であり、それに沿って生徒が学習する方式を系統学習と呼びます。
例えば英語でbe動詞→一般動詞→疑問詞のように学習が進んでいくことなどがこれにあたります。
全ての教科において系統が作成されていますが、系統の強さ(系統性)は各教科ごとに異なります。英語で疑問詞を最初に学ぶことはありませんが、理科で植物と動物を学ぶ順番を入れ替えてもさほど大きな問題はないように感じます。
算数数学における系統性
算数数学において、この系統性はどうなのでしょうか。ご察しの通り、算数数学は系統性が強い教科です。文科省の「小中一貫した教育課程の編成・実施に関する手引」では、以下のように書かれています。
特に算数科・数学科のように系統性が強い教科においては,下学年の既習事項のつまずきにさかのぼって指導しなければならない局面が多々あります。
また、旧過程の小学校学習指導要領解説算数編においては、
算数・数学には内容の系統性や学習の連続性が明確であるという教科としての特性がある。
としており、文部科学省も前々からそのように算数数学を捉えていることが分かります。
系統性が強いということは学習にどのような影響があるのでしょうか。加藤(2024)はこのことについて以下のように述べています。
算数科は小学校の各教科の中でも、系統的に整理をされた教科で、指導内容の積み残し即ち児童にとっての「つまずき」をそのままにしてしまうと、その後の学習を進めていくことが難しくなる。また、その時点の内容を理解できず、その後の単元への意欲も失われると、算数嫌いな児童へ近づいていく負の連鎖になりかねない。
このように、算数数学は系統性が強く、「つまづき」がその後の学習へ悪影響を及ぼしやすい教科であることが分かります。
さて、ここで冒頭の調査結果に戻りたいと思います。3割の子たちが算数を半分も理解できていない状況は、中学校にそのまま引き継がれることになります。
小中連携が叫ばれてはいるものの、これはあくまで小学校の内容を理解している前提での議論となっていることが多く、この子たちが何を理解できておらず、どこからつまづいているのかという情報が中学校に伝わることはごく稀です。小学校よりも授業スピードの早い中学校の中で、この「つまづき」が解消されることは難しいでしょう。前述した加藤の論に従えば、この子たちは中学校が始まった時点で数学を諦めかねない事態となってしまうということです。
中学校3年生に対して同時期に行われた中学校数学の全国学力状況調査は残念ながらその予想を裏付ける結果となっています。平均正答率は8.5問/16問で53.1%の正答率となり、小学校から約10%の減少となっています。変化が顕著なのが最頻値で7問/16問となっており、小学校が14問/16問であったことを考えると、ボリュームゾーンの変化が著しいことが分かります。
これらの結果は今までの議論を踏まえると自然な結果であると自分は考えています。小学校からの「つまづき」や中学校で新たにできた「つまづき」が解消されなければ順当に正答率は下がっていき、このような数値となると考えられるからです。
学校の「つまづかない」対策
このような傾向への対策として、新課程の算数科指導要領解説においては、以下のような目標が掲げられています。
数学的活動の楽しさや数学のよさに気付き,学習を振り返ってよりよく問題解決しようとする態度,算数で学んだことを生活や学習に活用しようとする態度を養う。
ここでの「学習を振り返って」という文言は、旧課程の算数科指導要領には存在しなかったものとなっており、新たな価値観であると言えます。「振り返る」や「振り返って」という文言は新課程の算数科指導要領解説には計193回登場しており、国語科の同資料が15回であることを鑑みると、算数の学習において振り返ることの重要性が分かります。
また、教科書や指導内容もそれに対応しており、何度もくり返し学べるようにカリキュラムが設計されています。例えば分数の足し算や引き算は小学校5年生で学びますが、分数自体は小学校2年生の時点で登場しており、2,3,4年生では分数の概念などを中心にくり返し学んでいます。このようにくり返し学びながら少しずつ難しくなっていく方式をスパイラル方式と呼び、これは前の学年を振り返りながら進められるよう工夫された結果であると言えます。
逆に言えば、このようにくどいとも感じられる方式が取られているにも関わらず、前述のような結果になっているということでもあります。
「つまづき」を解消する対策
そのように考えると、今必要なのは「つまづかない」施策ではなく、「つまづき」を解消する施策なのではないかと考えます。算数の「つまづき」に対して、個別学習支援が有効であるとの調査は数多く出ています。細谷ら(2013)は、
個々の児童の学習のつまづきに応じて臨機応変に個別学習支援を行うことにより、児童の学習意欲が改善されうることが明らかとなった。
とまとめており、学習意欲に対してもプラスの効果があるとしています。しかし、集団授業が基本となる学校において個別学習支援を行うことが難しいことは明白であり、結果として現在の正答率に繋がってしまっているのではないかと考えます。
終わりに
この記事は以上となります。
今回は、算数数学がなぜ苦手であり続けているのかについて解説しました。
その教科的特徴から苦手となりやすい算数数学は、多くの児童生徒が「つまづき」を抱えていることが分かりました。学校側も「つまづかない」ように対策を行っているものの、「つまづき」が起こってしまう以上は個別支援によって解消していくことが必要です。テラボでは、そういったお子さんのニーズに合わせて、どこからでも復習できる環境を整えるとともに、確実な理解を目標として個別学習を進めるように心がけています。
算数数学はプログラミングとも関わる重要な教科です。算数数学が足枷となってプログラミングが止まってしまうといったことが無いよう、丁寧な指導を進めていきます。
次回は、なぜビジュアル言語から始めるのかについて解説していきます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
(文責 本多)
引用文献
小学生白書web版,
https://www.gakken.jp/kyouikusouken/whitepaper/202411/index.html ,(2025年4月13日閲覧)
国立教育制作研究所(2024),令和6年度全国学力・学習状況調査報告書【質問調査】
https://www.nier.go.jp/24chousakekkahoukoku/report/data/24qn.pdf
国立教育制作研究所(2024),令和6年度全国学力・学習状況調査報告書【小学校/算数】
https://www.nier.go.jp/24chousakekkahoukoku/report/data/24pmath.pdf
文部科学省(2016),小中一貫した教育課程の編成・実施に関する手引
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/08/29/1369749_1.pdf
文部科学省(2017),小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_004.pdf
文部科学省(2008),小学校学習指導要領解説算数編(前半)
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/16/1234931_004_1.pdf
国立教育制作研究所(2024),令和6年度全国学力・学習状況調査報告書【中学校/算数】
https://www.nier.go.jp/24chousakekkahoukoku/report/data/24mmath.pdf
加藤達也(2024),小学校算数科における児童のつまずきを踏まえた授業改善 – 第4学年算数科「小数のしくみ」の実践を通して -,帝京大学大学院教職研究科年報,号9, p.170-171
https://teikyo-u.repo.nii.ac.jp/records/2002511
細谷里香,北川里奈,松村京子(2015),児童のつまずきに応じた算数の個別学習支援による学習意欲の変容,教育実践学研究巻14号-2,p.1-12
https://hyogo-u.repo.nii.ac.jp/records/276