はじめに
「基礎学力」という言葉を聞いて、皆さんはどのようなイメージを持つでしょうか。
一般に、義務教育段階では「読み書き・計算」を表す際に基礎学力という言葉が用いられます[1]。
高校になると拡張し、「義務教育~高校基礎レベルの知識・技能」と、それらを活用する「思考力・判断力・表現力」であるとされます[2]。
また大学になると、現在は数理・データサイエンス・AIが入ってきます[3]。
一言で基礎学力と言っても、色々なものを表すようです。
ただ実を言うと、学校教育を規定する資料である、学習指導要領においては「基礎学力」という文言は登場しません。
そもそも「学力」という言葉の、文科省による明確な定義はありません。
学力とは?
「学力」とは一体なんなのでしょうか。
「教育用語ハンドブック」[4]においては、以下のような説明がされています。
学力に関する明確な定義はないが、操作的・形式的な定義としては、「学習によって習得された能力」「学習成績として表される能力」と表される。
(中略)
人間的能力として形成される学力を育てるためには、
(1)学力を後天的な学習を通して獲得させる、
(2)媒介になるものは人類や民族の文化遺産(科学・技術・芸術の体系)を再構成した学校の教科であり、それを計画的な授業を通して獲得させる、
(3)学力は、学習主体の主体的な姿勢が前提であり、人間的能力として全体的な発達と不可分に形成させること、
(4)学力は客体的側面(学習対象としての教育内容)と主体的側面(学習主体の関心・意欲など主体的条件)との統一的で実践的な取り組みの結果として育成することが重要である。
要するに学力とは、
・学習によって習得された、成績として表せるものである。
(ただし、学力の獲得には主体的な姿勢が必要であるため、同時に育成する必要がある。)
ということです。
この説明から考えると、学習指導要領において「学力」という言葉が、用いられない理由にも納得がいきます。
学校教育は、上記で説明された2つの側面、学力と主体的な姿勢の両方をまとめて育てていく必要があります。よって、わざわざ取り出して「学力」として明記する必要がなく、まとめて「資質・能力」と言えば良いからです。
また、文科省が主導で行っている全国的な調査(≒テスト)の名称は「全国学力・学習状況調査」[5]となっています。
学力が成績として表されるものである、という説明と合致していることから、文科省が意図的に使い分けていることが分かります。
基礎学力は学力なのか?
さて、ここで疑問が浮かびます。
この記事の冒頭で書いたような「基礎学力」は、これらの説明と合致しているのでしょうか。
学力が学習の結果である以上、基礎学力も同様に、そこでの学習の結果ということになります。
読み書き・計算に限って言えば、義務教育期間で学習することの中でも簡単な部分(≒基礎基本)と考えることもできます。そういった意味では基礎学力と言えるでしょう。
ただ、高校における義務教育レベルの内容は「基礎学力」と言われるものの、高校で学ぶものではありませんし、大学における数理・データサイエンス・AIの内容は、もはや簡単な部分とは言い難いでしょう。
基礎学力の内容が状況によって変化している以上、一般的な基礎→応用→発展のような、難易度としての言葉では説明がつかないことが分かります。
つまり、基礎学力とは単なる『簡単な問題が解けること』を指すのではない。
私たちはそう考えています。
それはもっと根源的な、「学び方を学ぶための土台なのではないでしょうか。
文科省における基礎学力
文部科学省は、「基礎学力」という言葉自体は使用していませんが、「学力を習得する上での基礎」を違った名称で定義しています。
それが「学習の基盤となる資質・能力」[6]です。
小学校学習指導要領において、以下のように説明されています。
各学校においては,児童の発達の段階を考慮し,言語能力,情報活用能力(情報モラルを含む。),問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう,各教科等の特質を生かし,教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。
2030年からの学習指導要領は、ここからさらに「問題発見・解決能力等」が削除され、以下2点が学習の基盤となる資質・能力となる予定です[7]。
①言語能力
②情報活用能力(情報モラルを含む)
言語能力とは
言語能力は指導要領において、「言語を用いてテクスト(情報)を理解し、文章や発話により表現するための力」と定義されています。
言語が文字や記号で意味を表すものである以上、私たちが学校で学ぶ言語は多種多様です。
日本語、英語、プログラミング言語だけではなく、算数数学で用いられる数式も言語といえるでしょう。
算数の文章題や数学の証明問題などは、まさに数的な言語能力を必要とします。
情報活用能力とは
情報活用能力は同資料において、「情報技術を適切かつ効果的に活用し、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていく力」と定義されています。
また、この中には情報手段の基本的な操作の習得や,プログラミング的思考,情報モラル,情報セキュリティ,統計等に関する資質・能力が含まれることが明記されています。
プログラミング的思考は、まさしくプログラミングの活動を中心として育まれていくものであり、統計には数学的な能力が必須となります。
また言語で情報を伝え、情報は言語で理解する以上、これら2つの能力は単独で作用するものではなく、相補的に作用しあう物であると考えます。
これら2つを同時に育てていくことは現代の教育に必要な事であると考えます。
これらの能力は単に日本語の読み方を習ったり、パソコンの操作方法を覚えたりするだけで身につくものではありません。実際に言語を用いたり情報機器を用いたりしていく中で育まれていくものです。
3教科の重要性
本校が何故、算数・数学・英語・プログラミングを教科として取り扱っているのか。その理由の1つに、これら「学習の基盤となる資質・能力」があります。
算数・数学では、事象を数理的な記号に置き換え(言語化)、論理の法則に従って解を導く(情報処理)ことが必要です。そもそも算数・数学から展開していく学びは、世界を数という言語で記述しようとする試みであるといえるでしょう。
英語は、ルールという視点から言語を見る初めての活動です。論理的に文を並べる必要があり、俯瞰して自身の言語を見ることに繋がるため、言語能力を伸ばすのに最適な教科です。
プログラミングは、情報機器の基本的な操作は当然として、プログラミング的思考を育む中心的役割であると同時に、算数・数学・英語と同様に、新たな言語体系への挑戦でもあります。コンピュータやAIと対話し、問題を解決していく必要があります。
これら3教科、算数・数学・英語・プログラミングを丁寧に学んでいくことは、それすなわち学習の基盤である言語能力と情報活用能力を育てることです。
学習の基盤が整うということは、自分で学ぶ能力を持つということです。AI時代の中、本校が目標とする「未来を自分で切り拓く力」を育てるにあたり、この能力は必須であると考えています。
終わりに
今回は、「基礎学力は「読み書き・計算」ではない?」について解説しました。
基礎学力とは学力をつける上での基礎であり、言語能力と情報活用能力がその中心となっています。
算数・数学・英語・プログラミングは、それら学習の基盤を育てる上で重要であるとともに、全てを連動して育てていく必要があります。
本校が、お子様の学習の基盤を育てる上での一助となることを願っています。
次回は、「義務教育は誰が決めているのか」について解説していきます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
(文責 本多廉)
引用文献
[1]産経新聞(2024)「今だから、基礎学力の話をしてみよう~基礎学力とは、どんな力? 読み・書き・計算、その先に何がある?~」
https://www.sankei.com/article/20240115-5HJKFJPEFJAA7EATLLUKG7CPEM
[2]文部科学省「高校生のための学びの基礎診断」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/1393878.htm
[3]文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/suuri_datascience_ai/00001.htm
[4]田中博之ほか(2023)「教育用語ハンドブック」
[5]文部科学省 国立教育制作研究所「教育課程研究センター「全国学力・学習状況調査」」
https://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html
[6]文部科学省(2017)「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編」
https://www.mext.go.jp/content/20230308-mxt_kyoiku02-100002607_001.pdf
[7]文部科学省 教育課程部会(2025)「検討資料⑤ 学習の基盤となる資質・能力」
https://www.mext.go.jp/content/20251216-mxt_kyoiku01-000046335_04.pdf